DATE 18.12.26
『A3!』2周年直前企画!
~春組編コラム~
『A3!』2周年直前企画!ゲームギフトのお誕生日記事でお馴染み、フリーライター・たまおさん(@tamao_writer)による特別コラムをお届けします!
第一回目は春組編!どうぞお楽しみください♪
※本記事には【メインシナリオ第一部クリア】【メインシナリオ第二部クリア】および一部のイベントのスクリーンショット・ネタバレがございます。お読みいただく際はご注意ください。
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2017年1月27日にリリースされた『A3!(エースリー)』。老舗劇団MANKAIカンパニーの新たな歴史は、プレイヤーである私たちが劇団の“総監督”となったこの日からスタートしました。そして、春組、夏組、秋組、冬組、年齢も職業も個性もバラバラな彼らが同じこの場所に集まり、演劇というひとつの夢に向かって走り続けて丸2年が経とうとしています。
いまではたくさんの監督たちが、まだつぼみだった彼らを咲かせ、たくさんの素晴らしい舞台を作り上げています。どれも忘れがたい思い出ばかりですが、そのなかでも印象的だったできごとやメインの公演を振り返りながら、彼らひとりひとりや各組ごとの魅力などを語っていきたいと思います。第一回目となる今回は、すべての始まりである“春組”語りをお届けします。
佐久間咲也――ここが花咲く場所
主人公が初めてMANKAIカンパニーを訪れたとき、たった一人の劇団員だったのが佐久間咲也くんです。咲也くんは幼い頃に両親をなくし、親戚の家で生活はしていたものの、身の置き場がなく孤独を抱えていました。そんな彼が小学生のときに出会ったのが“演劇”です。いつも不器用で失敗ばかりの彼が出会った舞台とは、役を演じる者が胸を張って立てる場所であり、居場所さえもなくしかけていた彼にとっての夢と憧れになったのでした。
メインストーリー第一部第1幕(春組旗揚げ公演『ロミオとジュリアス』より)
そんな彼が生まれて初めてのちゃんとした劇団で、主演で座長という、大人でも怖気づいてしまうくらい責任ある立場で成功させたのが、新生MANKAIカンパニーの記念すべき旗揚げ公演『ロミオとジュリアス』です。彼が必死の努力を重ねて演じた“ロミオ”は、他の誰にも演じることができない咲也だけのロミオになりました。
咲也くんは、いつでも何に対しても一生懸命です。その純粋な目でまっすぐに夢や仲間たちに向き合い、どんなに高い壁にぶつかっても、絶対に諦めない強さを持っています。そんな彼を見ていると、出会う人の心を和ませ、顔をほころばせる桜の花のようだなと思います。彼は「持たざる者」ではなく、どんなものにもなれる可能性を秘めた人。夢が大きければ大きいほど、仲間との絆が強くなればなるほど、とてつもなく高い場所までいけるのではないかと感じさせてくれるのです。
碓氷真澄――大人になるということ
碓氷真澄くんは、監督に一目惚れしてMANKAIカンパニーに入団を決めました。動機としてはやや不純ではありますが、真澄くんは監督への気持ちを隠すことなく(今でも!)公言しています。誰かとつるまず、そうやってわが道を行く彼は、最初の頃はみんなと上手く付き合うことができませんでした。彼が“早く大人になりたい”と願っていたのは、恋を実らせたいからというのもあるだろうけれど、大人になればひとりきりでも生きていけると思っていたのかもしれません。けれどそんな彼を少しだけ変えたのは、ほかでもない春組の仲間たちと演劇でした。
春組第二回公演『不思議の国の青年アリス』より
大人になれば、友だちがいなくても、家族と離れていてさえも生活をしていくことは簡単になります。けれど孤独や寂しさは、愛でしか埋めることはできません。友情や仲間、家族と、愛にはいろいろなかたちがあります。いつでも一緒、いつでも仲良しではなくたって、お互いに思いやっていることをちゃんとわかりあえていたなら、心が凍えてしまうことはないのだと思います。もしかしたらそういうことを知っていくのが、大人に近づいていくことでもあるのかもしれません。
彼が主演を務めたのは、春組第二回公演『不思議の国の青年アリス』。ある意味で不器用ながらも、みんなとともに問題を乗り越え成功させた舞台は、大人への階段を登っている途中の彼の、大きな成長の糧となったように感じました。
皆木綴――いつかまた会うための鍵
皆木綴くんは10人兄弟の三男坊です。たくさんの家族に囲まれた彼は、みんなのお世話に追われ、作家になりたいという夢をずっと先延ばしにしてしまっていました。けれどいろいろな出会いがあって、経験があって、そういうものを積み重ねたからこそ書けるものがあるし、たどり着くタイミングもあるのだと思います。
彼が劇団の脚本家となれたいま、それでもたったひとつだけ心残りになっていたものがありました。それは、離れてしまった大切な友だちのこと。そのことを再び思い返しながら書いたのが、春組第三回公演の『ぜんまい仕掛けのココロ』です。
春組第三回公演『ぜんまい仕掛けのココロ』より
「信じる」という気持ちは、何よりも強いものなのかもしれません。夢に手が届くと信じ続けていればいつかは叶うかもしれないし、過去に置いてきてしまった宝物も、どこかに必ずあると信じて探しに行くことだってできる。信じるというのは、可能性を手放さないことでもあるのだと思います。
彼は幸せや喜び、痛みや涙、心に積み重ねた想いを文字にして物語を綴り続けます。その胸にはいつの日かもう一度その手に届くと信じている、宝物を開けるための鍵を大切にしまってあるのでしょう。
卯木千景――ペテン師の涙
MANKAIカンパニーが迎えた二度目の春、新たな仲間となったのが卯木千景さんでした。にこやかで紳士的で何のトラブルも起こさず、周りのみんなとも上手く過ごしていた千景さんでしたが、その入団の目的はある人物に対する復讐でした。
彼は公演前という大切な時期に行動を起こします。それでも仲間たちは、彼が起こしてしまった行動そのものではなく「卯木千景」というひとりの人間のありのままを、心を信じ、その帰りを待ち続けます。そして真実が明らかとなり行き場をなくした彼を、みんなは何も聞かずに「おかえりなさい」と笑顔で受け入れたのです。
メインストーリー第二部第5幕(春組第四回公演『エメラルドのペテン師』)より
仲間のもとに戻り、彼が初舞台・主演を務めた春組第四回公演『エメラルドのペテン師』。板の上で彼が口にしたセリフは、シナリオ上のものでありながら、彼自身から出た言葉のようにも感じます。それまで本当の意味では劇団の誰とも目を合わせていなかった彼が、初めて仲間たちと正面から向き合ったとき。みんなの愛と、ペテン師だった彼が流した涙が、冷たく凍ってしまった心を溶かしたのかもしれません。
憎しみや怒り、強い感情を持てる者は、きっと何かや誰かを深く愛することもできるのだと思います。その後も相変わらずクールに立ち回っている彼だけれど、その胸のなかが、いまはあたたかいものでいっぱいに満たされていたらいいなと思います。
シトロン――海の向こうに
メインストーリー第二部、冬組が物語の中心となった第8幕でシトロンくんの素性が明らかとなりました。そこに至るまでにいくつものヒントはありましたが、彼は海外からの留学生ではなく、海の向こうの遠い国の重要な人物だとわかったのです。そしてある理由から、彼は故郷に帰らざるを得ない状況になってしまいました。
思えばシトロンという人は、いつもふざけて適当なことや冗談ばかり言っているように見えても、誰かが深刻になっていればその場を和ませ、決してみんなにつらい顔は見せない人でした。それは彼が心から「劇団のみんなといられることが嬉しい、幸せだ」と思っていてくれたからなのだということがよくわかります。彼が自由を求めて世界中をまわるはずだったのに、この場所にい続けてくれたことが何よりの証拠です。
メインストーリー第二部第8幕より
彼にとっての舞台とは、要人ではなくただの「シトロン」としてどんな人物にもなれる、どこにでも行ける場所。けれど彼は愛情深く、与えられた責任や期待を裏切れない人だから、遠い海の向こうの大切なものも決して忘れたりはしないし、仲間たちと同じくらいにこの先もずっと愛し続けるのでしょう。
「離れていても、つながっている」――これはシトロンくんが、第三回公演のときの綴くんにかけた言葉です。絆や想い、愛という目には見えないものは、その心にありつづけるかぎり永遠なのだと、そう思います。
茅ヶ崎至――大好きなものを、大好きな人たちと
表向きは超エリートなイケメン会社員。しかしその実態は、筋金入りの廃人系ゲームオタク。そんな彼、茅ヶ崎至さんがMANKAIカンパニーにやってきたのは、“住み込みOKで食事付き”という自分に都合が良い条件が理由でした。
ある程度年齢を重ねると、“変わる”というのはなかなか難しくなってきます。至さんも“干物姿”をみんなの前で隠さなくなったものの、相変わらずいちばん好きなものはゲームに見えるし、事実ずっとそうだったのかもしれません。でも、そう言い切れないかもしれないなと感じたのが、彼が主演を務めたゲーム原作の春組第五回公演、『Knights of RoundIV』でした。
春組第五回公演『Knights of RoundIV』より
彼は高校時代のあるできごとがきっかけで人と深く付き合うことをやめ、“表の顔と素の姿”を使い分けるようになりました。だから素性を隠して好きなものについて語るゲーム実況は、彼の大切な居場所だったわけですが、いまはもう、そばにみんながいるから失ってもいいのだと口にしたのです。それを聞いて、彼にとってどれだけみんなが大切な存在になったのかと胸が熱くなりました。
大好きなものについて語る人の話を聞いていると、聞いているこちらまで楽しく、嬉しくなったりします。それはたぶん、その人の愛という熱量が伝わってくるから。だから私たち観客にとっていちばん感動的なのは、お芝居を心から愛している人たちが演じる舞台なのかもしれないなと思います。そんな舞台を見事に作り上げた座長・至さんにとって「いちばん好きなもの」は、いまはゲームだけではなく、すぐそばにもたくさんあるのかもしれません。
春組――The Show must go on
ここまで、春組の旗揚げ公演から第五回公演までを交えながら劇団員をご紹介しましたが、ストーリーを読み返すたびにすごくいいなと思うのが、誰かがつまずきかけたとき、誰かが必ずさりげなく手を差し伸べているところです。もちろん、どの組でもそうやって助け合って舞台を作り上げています。でも私たちの知る春組が結成されたとき、劇団員は(第一部当初は)たったの5人しかいなかったのです。
春組はMANKAIカンパニーがなければ知り合うこともなかったかもしれないと思わせるほど、もっと言えば仮に学校や職場が同じだったとしても、友だちになるところが想像しづらいくらいに好みも個性もバラバラです。そのうえ、春組は劇団の中で唯一、演劇の経験者がひとりもいません。だから彼らがしてきた苦労というのは相当なものだったはずで、そういう苦難を一緒に乗り越えてきたからこそ、家族のような絆が生まれたのだなと感じます。
咲也くんも言っていましたが、公演が成功したように見えても、舞台裏では最初から最後までうまくいったことなど一度もありません。旗揚げ公演のときにはお芝居が上手くいかなくて、「舞台のことがわからないなら、舞台の上でみんなで一緒に寝てみよう!」とみんなで布団を持ち込んだりしたこともありました。
第二部では千景さんをめぐる事件が解決したあと、心に痛みを抱えたままだった彼を囲むように、またみんなで一緒に板の上で眠ったりもしました。
この2年間を過ごすなかで、誰かがつまずいたり、立ち止まったことはたくさんありました。それでも、「The Show must go on」――ショーは何があっても終わらない、続けなきゃいけない。春組は舞台を諦めず、仲間の危機にもみんなで立ち向かい絆を強めながら、板の上の夢をつないでいったのです。
まだまだ課題も多い劇団員たちは、いまでも何度も危機や問題にぶつかっています。でもそれらをもっともっと大きな感動で塗り替えてくれるのが、MANKAIカンパニーという劇団です。そして春組こそが、間違いなくそのはじまり、礎を作ったかけがえのないメンバーなのだと思います。バラバラだった彼らがひとつの場所に集まり、何もないところから手探りで、土を耕して、色とりどりの花を咲かせる場所を作ってくれた。そういう意味で、彼らはすごく特別だなと感じるのです。
花は生きている限り、何度でも繰り返し咲く。
舞台がある限り、そこに役者がいる限り、ショーは終わらない。
そうしていつか、春組のみんなが世界中をたくさんの花たちでいっぱいにしてくれることを、心から楽しみにしています。
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今週は春組コラムをお届けしました!次回、夏組編は【1月9日】更新予定!お楽しみに♪