DATE 19.01.16
『A3!』2周年直前企画!
~秋組編コラム~
『A3!』2周年直前企画!ゲームギフトのお誕生日記事でお馴染み、フリーライター・たまおさん(@tamao_writer)による特別コラムをお届けします!
第三回目は秋組編!どうぞお楽しみください♪
※本記事には【メインシナリオ第一部クリア】【メインシナリオ第二部クリア】および一部のイベントのスクリーンショット・ネタバレがございます。お読みいただく際はご注意ください。
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2019年初頭、いよいよリリース二周年を迎える「A3!(エースリー)」。直前企画としてMANKAIカンパニーの劇団員たちと各組を語る本コラム、今回はワイルドなアクション派“秋組”語りをお送りします。
摂津万里――勝者の孤独
秋といえば穏やかな気候の季節ですが、MANKAIカンパニーに訪れた“秋”は、先に生まれた春組や夏組に負けず劣らずの激しすぎる騒動を繰り広げました。
そんな秋組のリーダーとなった摂津万里くんは、大抵のことを苦労せず器用にこなせてしまう“人生スーパーウルトライージーモード”な人です。万里くんは、界隈では最強と言われていた兵頭十座くんに初めて喧嘩で負けたことをきっかけに、彼から勝ちを取るため秋組に入団したのでした。
なんでも簡単にできるということは、一見すごく羨ましく思えます。けれどそれは、なにかを成し遂げようと心を砕くことで生まれる価値や、同じように汗を流した誰かとの共感を得られないということでもあるはずです。そういう意味では、類まれなる才能とは想像し難い孤独感と引き換えのギフトということなのかもしれません。万里くんはなにかを難なく“クリア”してしまうたび、誰かに羨望されたり嫉妬されたりするたびに、彼自身も知らぬ間に少しずつ傷つき、次第に心が冷たく渇いていってしまったように感じられます。
メインストーリー第一部第3幕(秋組旗揚げ公演『なんて素敵にピカレスク』より)
板の上では、偽りやごまかしがききません。自分の奥底にあるすべてをさらけ出さなければ、人の心を動かすことはできないのです。仲間のポートレイトによってそれを目の当たりにしたことで、自分のなかに残っていた火種が再び熱く燃え上がり、彼は芝居と正面から向き合うことを決意します。
そうして主演を務めた舞台が、新生秋組の旗揚げ公演『なんて素敵にピカレスク』です。芝居とは、終わり無くどこまでも上を目指せるもの、そして、すぐ横には同じ夢を追いかける仲間がいる。それは、彼が生まれて初めて見つけた宝物だったのかもしれません。
伏見 臣――その瞬間を、永遠に
料理が得意でみんなの世話を焼くことが上手なみんなの“オカン”、伏見臣くん。大学で写真部に所属している彼は、劇団員たちを撮影したことをきっかけに監督からスカウトされ、秋組に入団しました。大らかで優しくて、争いごとなど縁がなさそうな人……と思いきや、かつては“狂狼”の異名を持つ最強のヤンキーだったことがわかります。けれど彼はその頃のことはあまり口にせず、いつも穏やかに笑っているのでした。
そんな彼が主演を務めることになったのが、秋組第二回公演『異邦人』です。彼はもともと自分より周りのみんなを優先するタイプの人ですが、そういう優しさが、座長として、役者としての弱みになってしまいます。彼がいつもどこか遠慮がちで自分をさらけ出そうとしないのは、 “狂狼”と呼ばれていたころ、無二の親友を事故で亡くしてしまったことが理由でした。臣くんは、本当は役者になりたかったという親友に代わり、夢を叶えようとしていたのです。
秋組第二回公演『異邦人』より
彼が写真を撮り続けるのは、時間は巻き戻せないことを痛感しているからこそ、ファインダーの向こうの笑顔を切り取ってかたちに残したかったからなのかもしれません。それは、永遠に失われてしまった親友の幸せへの贖罪のようにも思えます。でも、臣くんの人生の主人公は、ほかでもない彼自身です。レンズ越しのみんなを見守るのではなく、同じ板の上に立たなければできないことがある。“強くあること”の本当の意味に気づけたのは、一緒に板の上に立ち、同じ夢を目指す仲間がいたからこそでした。
『異邦人』のラストで、三脚を使ってみんなで撮った記念写真。それはいつまでも色褪せること無く、思い出のアルバムに、彼の心にあり続けるのでしょう。
古市左京――本当は、ずっと
物語の始まり、主人公の前に立ちふさがる脅威として登場したのが古市左京さんです。彼はMANKAIカンパニーの借金元のヤクザで、提示した条件を満たさなければ劇団を取り壊すと告げました。けれどそれは、劇団を愛するが故の行動だったことが後に判明します。彼は幼い頃からMANKAIカンパニーを知っており、その舞台に立つことをずっと夢見ていたのです。
秋組の第三回公演『任侠伝・流れ者銀二』では、左京さんが主演を務めることになりました。このとき、あるできごとをきっかけに、彼と秋組のみんなとの間にほんの少しだけ気持ちのすれ違いが生まれてしまいます。
「年齢的に、自分には残された時間が少ない」「みんなとは違う」……だから自分より若い奴らを優先したいのだと、いつも左京さんは言っていました。でも監督が言っていたように、どんなに年齢や生き様が異なっていようが、彼もまたみんなと同じMANKAIカンパニーの一年生です。自分自身を認め、受け入れ、失敗を繰り返さねば成長はできないし、本物の役者になることはできません。
秋組第三回公演『任侠伝・流れ者銀二』より
止まっていた彼の時計の針は、監督や秋組のみんなによってふたたび動き始めました。本当はずっと役者になりたかった。本当はずっと後悔していた。本当はずっと……左京さんが抱えていた後悔や秘めた想いはこのときからかたちを変え、彼の情熱を燃やす源となったのかもしれません。
劇団を愛し、芝居を愛し、陰日向になって仲間を支える左京さんの“本気”をそばで見続けられるということは、みんなにとってこの上なく頼もしいことでしょう。そして左京さんにとって、仲間を支えかつての夢を叶えるこの劇団が、なによりかけがえのない場所になったのだと思います。
兵頭十座――静寂の炎
兵頭十座くんは、誰にも負けないくらい「役者になりたい」という強い気持ちで劇団の門を叩き、秋組の一員となりました。オーディションに現れた頃の彼はちょっと驚くほどの大根だったのですが、人に笑われても、馬鹿にされても決して言い返したりせず、ただ黙々と、かつ必死で努力を続けていきました。
その見た目や腕っぷしの強さで、近隣では負け知らずと言われた“不良”の彼が、なぜ役者を目指そうと思ったのか。それは、自分ではない誰かになりたい、殻を破りたいという切なる願いからだったのです。
彼は、好きで人を殴ったりしてきたわけではなかった。誰かに拳を向けるたび、手だけではなく心も痛めてきたようにも思えるし、多くを語らない彼は、これまでにあらゆる誤解を受けてきました。でも、ずっとその胸の中には静かに情熱を燃やし続けていて、それを思い切りぶつけられる場所を、本当の意味で戦える場所を夢見て、MANKAIカンパニーの板の上に立ったのです。
秋組第三回公演『任侠伝・流れ者銀二』より
彼は朴訥としていて、他人の気持ちに敏感な人とは言えないかもしれません。けれど、本質を見抜く目はしっかりと持っているように感じます。愛や情熱というものが、人生でどれだけ大切なものかということを。
十座くんは、旗揚げ公演と第三回公演で助演を務めました。それだけでなく、主演を支える立場としても、彼がいなくては公演の成功はなかったかもしれません。陰で重ねる努力や行動、そういうところはとても十座くんらしいなと思うし、そんなひたむきな姿が秋組のみんなにとっての支えになったこともあるでしょう。
そうやって努力を積み重ねていった先に、彼がずっと夢見ていた場所。いつかその舞台の真ん中でどんな人物を演じてくれるのか。それが、今から楽しみでなりません。
泉田 莇――トゲだらけのつぼみ
MANKAIカンパニーに二度目の季節がやってくる頃、泉田莇くんが登場しました。彼は左京さん属する銀泉会の会長の息子なのですが、跡目を継がねばならない立場に反発し、家出のようなかたちで劇団に転がり込んできたのです。ヤクザではなく、本当はメイクアップアーティストになりたいという莇くんは入団前から劇団に関わるようになっていたのですが、いよいよ実家に連れ戻されるかもしれないという時、秋組への入団を希望してみんなの一員となるのでした。
「将来は何になりたいか」……子供の頃は、誰もがそんな夢をふくらませたことがあるでしょう。でも莇くんは、ただ夢を見たり憧れたりするだけでなく、目指すものを明確に“目標”として捉え、勉強したり努力を重ねたりしていました。彼の夢は、早くに亡くなってしまった母の姿が原点であって、決して父や家柄に反発してのものではありません。だからこそ、早くから自分の将来が決められてしまっていたことは、彼にとってどれだけ苦しいものだったのだろうと思います。
自分以外の他人や家族が、本当はどういう想いでいるのかというのは、若いうちにはなかなかわからないことだなと思います。人の気持ちは態度だけではわからないこともあるし、大人でも捉え方や接し方を間違えてしまうもの。まだ中学生の莇くんは、心のなかにある愛を素直に表現できない、トゲに包まれた花のつぼみのようだなと感じます。
メインストーリー第二部第7幕(秋組第四回公演『DEAD/UNDEAD』より)
彼はみんなに助けられ、励まされ、叱られ、愛されて本当の願いにたどり着きました。そうして初めての舞台で主役を演じたのが、第四回公演『DEAD/UNDEAD』。この経験で、彼というつぼみがほころび、あたたかい色の花びらが顔をのぞき新しい道がひらいた、そんな気がしています。
七尾太一――愛されたかった小さな花
「演劇は未経験」。MANKAIカンパニーに訪れた七尾太一くんは、そう言って秋組のオーディションを受けました。その後に旗揚げ公演で起きたとある事件は、すべてが解決し、みんなが太一くんの抱えていた秘密を水に流した後も、彼の中では小さな黒いシミのようにずっと、消えずに残っていたのです。
6人となった秋組は、これまでの路線を変えてコメディータッチのカンフーアクションに挑戦することになりました。みんなの推薦もあり、第五回公演『燃えよ饅頭拳!』では太一くんが主演に決まります。けれど彼の表情は冴えず、主演のプレッシャーと過去の出来事の後悔に苛まれて、自分自身を追い詰めていってしまいます。
彼はMANKAIカンパニーに入るまでは、ずっと端役として、板の上の隅にいました。そんな過去もあってか、彼はずっと誰かに愛されたくて、見つめてもらいたくて、あらゆる努力を続けてきました。野に咲く小さな花は大輪の花に憧れて、でも、そうなることはできなかった。だけどどうしてみんなが太一くんを好きで、一緒に芝居をしたいと思うのか。それは、七尾太一という人間はこの世界にたったひとりしかいないからなのだと思います。
秋組第五回公演『燃えよ饅頭拳!』より
太一くんの努力を、みんなは彼以上によく知っています。彼がどれだけずっと舞台に焦がれていたかを。そして、そんな彼の笑顔にどれだけ癒やされ、励まされてきたかも。
どんなときでも笑ってそばにいてくれる彼が、この場所を選んでくれたこと。たくさんの「ありがとう」でいっぱいになったこの公演の思い出は、七尾太一というひとりの役者を、大きく前進させたのだろうと思います。
秋組――不器用な少年たち
“コワモテ”な見た目の役者が多い秋組ですが、彼らを見ていて共通しているなと思うのは、ある意味全員がとても不器用なところです。そして内面は意外と純粋で、それぞれのなかに、膝を抱えた小さな男の子の姿の彼らがいるようなイメージがあります。人間としての根っこの部分はとても無垢であるはずなのに、思っていることや願いを上手く表に出すことができないような。
彼らはみな、そういう内面を強固な“鎧”の下に隠しているように思えます。その鎧とは、拳であったり、威圧感ある見た目であったり、あるいは朗らかな笑顔であったり。本当は愛されたいし、大切なものに心からの想いを捧げたいと願っている。どんなに理性的に生きていたとしても、最終的には義理よりも人情を選んでしまいそうなところも似ていると感じます。
秋組は、みんな揃って和気藹々としている場面がそれほど多くはありません。そういうところはやっぱり、家族でも友達でもなく、同じ志を持つ“仲間”という言い方がしっくりくるなと思います。でも、彼らはただ行き先が同じ列車に乗り合わせただけの乗客同士ではありません。仲間の過去や現在に何が起きていたとしても、本人さえもそれを許せなかったとしても、積み重ねてきた時間や後悔も含めて丸ごとがっしりと受け止めてやる懐の深さと強さを持つ仲間です。その上で、そうして膝を抱えているのはひとりだけではないのだと、不器用ながらも懸命に伝えようとしているように見えるのです。
「板の上では嘘が通用しない」という話がありますが、ずっと鎧を身に着けて生きてきた彼らにとって、本当の人生を歩み始めることができたきっかけは、己のすべてをさらけ出す“芝居”でなくてはならなかった。ほかのどんな生き方でもなく、役者になったことで自分自身を赦し、受け入れ、自分らしくいられる場所を見つけつことが出来たのです。
生きることは選択の連続です。あのときこうしていなければ、あるいはこうしていたら、違った人生を歩んでいたかもしれない。けれど生きていれば、過去ではなく未来に顔を向けていれば、行き先はどこにだって変えられます。人生という舞台は、ほかならぬ自分自身が主人公として物語を作っていくものだから。
彼らが選んだMANKAIカンパニー、秋組の役者という人生。それはこの先も、少しばかり荒々しい道行きになるかもしれません。でも、喧嘩も馬鹿騒ぎも仲間がいればこそ。そんな旅も悪くないと笑いながら、どこまでもずっと、走り続けてほしいと願っています。
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今週は秋組コラムをお届けしました!次回、冬組編は【1月23日】更新予定!お楽しみに♪