DATE 19.01.23
『A3!』2周年直前企画!
~冬組編コラム~
『A3!』2周年直前企画!ゲームギフトのお誕生日記事でお馴染み、フリーライター・たまおさん(@tamao_writer)による特別コラムをお届けします!
第四回目は冬組編!どうぞお楽しみください♪
※本記事には【メインシナリオ第一部クリア】【メインシナリオ第二部クリア】および一部のイベントのスクリーンショット・ネタバレがございます。お読みいただく際はご注意ください。
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2019年初頭、いよいよリリース二周年を迎える「A3!(エースリー)」。直前企画としてMANKAIカンパニーの劇団員たちと各組を語る本コラム、最終回は大人の魅力あふれる “冬組”語りをお送りします。
月岡 紬――過去と未来を紬ぐ糸
劇団を存続させるため、ここまでどうにか公演を成功させてきたMANKAIカンパニー。ラストの冬組オーディションに現れた月岡紬さんは、自信なさげな態度でありながら、すぐにでも舞台に立てるレベルのお芝居を見せました。彼はかつて学生演劇で活躍する実力があったのですが、大手劇団のオーディションに落ち、そこで言われた心無い言葉がきっかけで役者の道を諦めてしまっていたのです。
その後は演劇以外の別の生き方を模索していた彼でしたが、どうしても役者の道を諦めきれず、意を決し天鵞絨町に戻ってきました。そして、どうしてもまた一緒に芝居をしたかったかけがえのない友の言葉や、ほかでもなく彼自身を必要としてくれるみんなに支えられ、これまで生きてきた以上に力強く、前を向くことができたのです。
メインストーリー第一部第4幕(冬組旗揚げ公演『天使を憐れむ歌。』より)
生きていればいつだってやり直しがきくことは事実です。けれどもしまたつまずいてしまったら、そこから立ち上がるのはきっと容易ではありません。だから彼は、すべてを賭ける覚悟で板の上に立ったのだろうと思います。逃げずに自分自身と向き合い、本当の願いを口にした瞬間、彼はどこまでも飛んでいける翼を手に入れることができたのかもしれません。
一本では弱い糸も、より合わせていくことで美しく強い織物になります。少しずつ、気の遠くなるような努力を重ねながら時間をかけて築き上げていくもの……それこそが、ほかの誰にもできない紬さんだけの芝居なのだと感じるのです。
有栖川 誉――誉れ高き詩人
冬組、いやMANKAIカンパニーきってのエキセントリックな劇団員の有栖川誉さん。彼の詠む詩はなかなか難解に聞こえなくもないのですが、これまでに何冊も詩集を出版しているそうです。自称ではなく、彼はれっきとした詩人なのです。
様々な芸術を愛し嗜む誉さんは、ある日ストリートACTをする劇団員たちに出会い、演劇は未経験だったと入団を決めます。ところかまわずいつでも独特の詩を披露する彼は、かなり個性的な人物ではありますが、実は面倒見が良く、決して他人を悪く言わない美徳の持ち主でもあります。
そしてなにより素晴らしいのは、彼が世界をとても美しく喜びに満ち溢れているものだと捉えているところではないかと思います。輝く陽の光や瑞々しい花、みんなの笑顔、ともに過ごすひととき、そうした瞬間瞬間を見逃さず言葉に変え、表現しようとするのです。
けれど本当は、彼は他人の気持ちを理解することができません。そのせいで過去に人を傷つけてしまったことがあり「みんな自分から離れていくのだ」と、どこか他人とのふれあいを諦めてしまっていました。でも、主演を務めた第二回公演『主人はミステリにご執心』での経験を通し、彼はひとつの気づきを得るのです。
冬組第二回公演『主人はミステリにご執心』より
壊れた懐中時計は、彼自身でもあります。困ったところもあるけれど、それを大切だと、必要だと言ってくれる人がいる。そうして彼は、美しい世界にもう一歩だけ歩み寄りました。その事実は彼のなかで、幾千幾万もの言葉を費やしても表現しきれないほどの幸せであるのかもしれません。
雪白 東――東雲の空、色づく世界
年齢不詳のセクシーなオトナのお兄さん、雪白東さん。東さんはMANKAIカンパニーに入団する前、 “添い寝屋さん”というやや特殊な職業をしていました。
彼はいつも優雅に微笑みをたたえ、おっとりした雰囲気を纏っています。なにごとにも余裕ある態度に見えますが、実は彼も、消えない過去の痛みを抱えていたのです。
子供時代の不幸な事故によって、彼はかけがえのない家族を失いました。ある日突然独りぼっちになってしまった彼はそれから、人々が眠りにつく静かな夜を嫌い、誰もがいきいきと動き始める朝の光からそっと顔をそむけて生きてきました。彼が劇団に入ろうと決めたのは、ここでなら、誰かと深くつながることができるかもしれないと思ったからだったのです。
「ただいま」と「おかえり」を言える場所。そして、「おやすみなさい」と「おはよう」を言える誰かとのつながり。
冬組第三回公演『真夜中の住人』より
冬組の第三回公演『真夜中の住人』では、主演として“孤独に生きる吸血鬼”を東さんが演じることになりました。独りで生きる運命を受け入れ、夜に生きる吸血鬼。それは東さん自身に似ているようでいて、彼とはまた違う存在であるようにも思えます。本当の彼は孤独を嫌い、人と人との繋がりによるあたたかさを求める“人間”らしさがあるから。
深い傷はすぐには癒えないけれど、少しずつ、夜明けの空が次第に色づいていくように。彼がみんなに囲まれて幸せそうに微笑む日々が、この先もずっと続いていくようにと願っています。
御影 密――密やかな月影
MANKAIカンパニーの寮の前で眠りに落ちて倒れていたという、一風変わった出会い方をしたのが御影密さんです。彼は名前以外のほとんどの記憶をなくし、行くあてもなく、文字通り無一文でした。そこで、ちょうど冬組を結成したばかりの劇団員たちから、ほかにすることもないのならと誘われて彼らの一員となったのです。
気づけばいつでもどこででも眠っている、歩くときは足音を立てない、人に背後に立たれることを嫌う、芝居にはとてつもない才能を見せる……記憶を失う前に何をしていたかは謎に包まれていたものの、周りのみんなの手助けもあり、彼はMANKAIカンパニーの役者として居場所を確立していきました。
そして劇団が迎えた二度目の春に起きたある事件をきっかけに、密さんはすべての記憶を取り戻したのです。
メインストーリー第二部第5幕より
“許されない罪”を思い出してしまうかもしれないと、彼は過去を思い出すことを恐れていました。それは記憶を取り戻すことで生まれる罪悪感や後悔だけでなく、ここにいるみんなを、みんなと一緒にいられるこの場所を失うことへの恐れでもあったのだろうと思います。でも、この先の未来も彼らと生きていくために、彼は一歩を踏み出しました。普段から思っていることをあまり口にしない彼ですが、どれだけこの場所を、みんなを愛しているのかがあらためて伝わってきたような気がします。
そうして新しい“家族”とともに涙を浮かべて見上げた月は、物言わずただ、彼を優しく照らしていたように見えました。
ガイ――天涯の花の色
春組のシトロンくんの元従者であるガイさんは、彼を探してはるばる海を越えてMANKAIカンパニーにやってきました。その後、とある理由から祖国に帰れなくなってしまったガイさんは、舞台で代役を務めたこともあり、そのまま冬組に入団することになります。
ガイさんは、自分を“祖国・ザフラ王国の研究所で作られたアンドロイド”だと言います。突拍子もない話に思えますが、シトロンくんも、ガイさん自身も嘘をついているようには見えません。自分の感情を上手く表現することができないながらも、彼は表面上ではわからない、自分以外のみんなのことを知ろうと務めます。それから、国に帰ったシトロンくんが残してくれた言葉の意味も。そうするうちに、彼の心のなかに少しずつなにかが生まれていきます。そしてその心の揺らぎは、ある日ついに、規則正しく動いていた“システム”に亀裂を生じさせたのです。
人間をひとつの生物として考えたとき、“感情”というものは、脳に生じる電気信号とそれによって分泌する物質によるものだという見方があります。けれどこの世界は、それだけでは片付けられないあたたかさや、言葉では説明できない“愛”に満ちているように思えます。彼は故郷から遠く離れたこの場所で、それを知ったのかもしれません。
メインストーリー第二部第8幕(冬組第四回公演『怪人Fと嘆きのオペラ』より)
花を見て美しいと思う気持ち、香りを感じて安らぐ心、そして、誰かとつないだ手や心に生まれたぬくもり。そうしたものをこれからまたひとつひとつ集めていく彼を、これからもずっと見守っていきたいと思うのです。
高遠 丞――その剣豪が丞くのは
MANKAIカンパニーのライバル劇団、GOD座。人気や実力ともに界隈ではトップと言われるその劇団で、高遠丞さんはメインを張る役者のひとりでした。しかし、トップで居続けるためには手段を選ばない劇団のやり口に失望し退団を決めた頃、ちょうど劇団員を募集していたMANKAIカンパニーに誘われて冬組の一員となったのです。
彼はとてもストイックな人で、ふざけたりする姿をほとんど見せず、常に舞台のことを考えています。何をするにも芝居がモチベーションで、みんなには、愛を込めて“演劇バカ”と呼ばれるほど。舞台ではどんな役もこなせてしまう彼ですが、けれど、人との付き合い方は決して器用とは言えません。
丞さんは、かつて一緒に板の上で夢を見ながらも袂を分かつことになってしまった紬さんに、ずっと言えないことがありました。紬さんから見れば、一度演劇を辞めてしまった自分に失望しているように思えていたのですが、本当は、紬さんを引き止められなかった丞さん自身を、言葉をかけられなかった己をずっと悔やんでいたのです。
冬組第五回公演『剣に死す。』より
冬組の第五回公演『剣に死す。』で彼は、主役の宮本武蔵を演じることになりました。どこまでも一途に剣の道を極め、常に命を賭けて戦う姿は、役者・高遠丞に通じるものがあります。
MANKAIカンパニーの劇団員たちは、ここで出会った仲間たちとふれあい、それぞれに成長をしてきました。けれどそのなかでも、かなり大きな変化を見せたなと思うのが丞さんです。彼は“役者”としてだけでなく、誰かの家族として、友達として、仲間として、ただ人に剣を向けるのではなく、手を差し伸べてあげることができるようになったのだから。
相変わらず愛想も良いとは言えないし、言葉少なで何を考えているかつかみにくい人ではあるけれど。彼のなかにある愛は、きっとみんなにも伝わっているのだと思います。
冬組――遠けれど近く、儚くも強く
冬という季節は、夜に似ているなと思うことがあります。春は光輝く朝、夏はまばゆい昼、秋は情感の夕暮れ、そして冬は、多くの命が安らぐ闇に包まれた夜。ふたたび緑が芽吹く春を待つ冬は、夜明けを待つ宵の時間のようだなと。
冬組は、MANKAIカンパニー唯一の“全員が成人”の大人の集まりです。若さとは勢いであったり、ちょっとした失敗が許されることでもあります。だから大人になってしまうと、大抵の人は多少なりとも慎重にものごとを進めるようになるし、「できるだけ失敗しないように」「傷つかないように」と、他人との距離や生き方を決めるところがあるのではないでしょうか。
肩を寄せ合ったりぶつかり合ったりするほど密接な関係ではない、かといってお互いの問題に知らんふりをするほど遠くもない。でも、冬組のみんなは最初からこうだったわけではありません。これまで歩んできた自分の物語を折に触れて聞かせ合い、時間をかけて手探りでお互いを知っていったのです。彼らはここまで生きてきたなかで、傷つくことのつらさや哀しくて流す涙の冷たさをよく知っています。だからこそ、自分だけでなく、他の誰かも傷つけないような関係を作り上げていった。そういうところは、本当に心の優しい人の集まりなのだなと思います。
人は、生まれてくるときも死ぬときも“一人”です。そして人生につまずいてしまったとき、そこからどうするかは自分にしか決められません。なぜなら、たとえ仲間がいたとしても、その人の人生はほかの誰かが築き上げていくものではないからです。彼らはみな、生きていく上で避けられない、そんなどうしようもない孤独を知っているように思えます。だからこそ、誰かがそばにいてくれる奇跡をよくわかっているのだろうと。
嬉しいとき、落ち込んだとき、くやしいとき、彼らはよくみんなで一緒にお酒を飲みに行きます。子供という守られる立場に戻れなくなった大人たちが、ほんの少しだけ心をあらわにして、甘えたり、泣いたり、くだらないことで笑ったり、自分が孤独でないことやお互いの愛を照れずに確認しあえる場所。そうして飲んで、ほろ酔いのままみんなで家に帰ろう……そんな夜を過ごすことで、彼らはまた次の日から前に進むことができるのです。
あるとき彼らが「春組は家族、夏組は友達、秋組は仲間だとすると、冬組の関係はなんだろう?」と話す場面があり、そのとき誉さんが「運命共同体」だと言いました。付かず離れずのように見えて、手を伸ばせば届く距離にいる。誰かが抱えきれなくなった苦しみは分け合ってともに背負い、小さな微笑みはみんなで重ねる大きな笑い声にする……。そんなつながりは、儚いようで強く、揺るぎない絆であるように思えます。
第一部で劇団が解散の危機に陥った時、冬組は一世一代の勝負に挑むことになりました。いま思えば、あの絶望のなかにあったわずかな希望の光を掴めたのは、彼らが闇を知っていたからこそだったのだろうと思います。そして、なにより彼らには “信じる”心がありました。お互いを、自分を、そしてみんなの願いを。信じるということは、ほかの誰かに心をゆだねることではなく、自分自身のなかで心を決めるということです。その覚悟が、何者にも屈しない彼らの強さになったのだと思うのです。
夜は暗いから、月や星の光が美しく目に映る。冬は寒いから、誰かと寄り添うあたたかさが心に沁みる。そうしていつか夜は明けて、彼らは煌めきと尊さを心に、明日に、夢に、光差す方に向かって一歩ずつ進んでいくのでしょう。
季節は巡り、いつまでも続く。
花は何度だって咲き、どこまでもその道を彩っていく。
そんなふうに満開に咲き誇るMANKAIカンパニーのみんなを、この先もずっとずっと、追いかけていきたいと思います。
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今週は冬組コラムをお届けしました!全4回でお届けしたコラム企画、いかがでしたでしょうか? 来週からは「サクッと分かる MANKAI マンガ宣言」を再開します!【1月30日】更新予定!お楽しみに♪